二通の手紙≪九月十七日≫ -爾-日本からの便り。 To MrYoshihiko Higashikawa c/o、Embassy of Japan Plot,No4&5、50-G Chanakyapuri NewDelhi India 9/7 Japan of Tokyo Miki Ohsako 「お元気で旅行中の様で何よりです。本当に驚きました。以前弟から貴方からの,お電話のこと聞いていましたので、気にはしていたのですが・・・・そちらはまだまだ暑いんでしょう!! 東京は大分しのぎやすくなり,ロマンチックな本格的な秋ももうじきという頃、今日日本は、旧暦の十五夜の日です。気温27℃前後、晴れのちくもり、久しぶりにきれいなお月様を見てみたいものです。お月見なんて、日本独特なものなんでしょうね? そろそろ日本が恋しく、望郷の念にかられてらっしゃるのでは・・・・・。タイから見る月もまるいのかしら・・・・・!? 勇気ある貴方がうらやましいで―す!! 私なんてこんな冷たいビルの中でイヤイヤ仕事をやっているっていうのに―。末筆になりましたが、無事のご帰国を遠い日本からお祈りしています。 会社のデスクにて。」 * 大佐古美紀は、大学時代ナンパして、美紀の友達と俺の友達四人で、九州一周の旅をした仲。親父から借りた車で、免許を取り立ての運転で、九州を走り回った思い出がある。 * もう一通。 「青い青い空がとても美しい秋となりましたが、とてもお元気の様ですね。お葉書きありがとう。こちらは緑がまぶしい頃から紅に変ろうという境で・・・・・・・(中略)・・・・・・・そちらの方では、まだ無事に生きていたようですね。もっとも、高山病や南京虫にやられたそうですが、もともとヨッちゃんは、おかしかったからもとどおりになって、かえって南京虫の免疫ができて、自信がついたのではないでしょうか? 毎日毎日平々凡々に暮らしている私には、想像もつきませんが大分四苦八苦しているようですね。わずかこんな小さな紙切れになにげなく書かれた字ですが、なんとなく大変だったことが伝わってきます。がんばれ!!・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・。 皆、この話(ヒッチハイク世界大会のこと)をすると感心していました。ある人が「若者らしい―!」とか、「勇気ある人ね。私そういう人に憧れちゃう!」とか・・・。私はいろんな人に話を聞かせますが、結局いつも返って来る言葉は、”やってみたいが、やれない。”という理想と現実との違いです。一致させる事がいかに困難か?! ただ私は常に若者でありたいと思っています。主婦になった今でも、若さのとりえは無我夢中で理想を追いかけることではないか・・・などと思ったりしています。・・・・(中略)・・・・・・・。 とにかく、私の言いたい事は、いつもいつもヨッちゃんのハガキを見る度に何か平凡な生活の中に燃えさせてくれるものを感じています。そんなハガキをありがたく思っています。 ワッカルカナ―!! では又、楽しいお便りを待っています。身体に注意して又、すごい旅をしていってください。 純春代理 10月8日(金) 」 * 彼女は旅する前の職場の仲間。 * この九月と言う月は、ラマダーンと言って、回教では断食の月だ。 これが不幸の始まり)だった。 歩き疲れてレストランを探すがほとんど閉まっている。 その上、禁酒ときているからまいってしまう。 ・・・・とは言え、旅行者用のレストランなどは、開いていて禁酒の方も、昔ほど守っているという人は少なくなったと聞いていたのだが。 仕方なく、高級レストランに入った。 給士「何にしましょうか?」 俺 「エ~~~~~と、フライド・ライス、スープ、コーラ下さい。」 給士「OK!」 持ってきたライスがパサパサ! 日本の米より細長く、その上粘り気が全くないときているから、美味いと言える代物ではない。 それでも、腹が減っているということは良いもので、何でも受け付けてくれる。 食事代、18.5Ru(630円) 満腹になったところで、部屋に戻り洗濯をしてシャワーを浴びる。 ニューデリーでの予定は二日間だけ。 その間に、旅の疲れと服の汚れをとっておきたいというのが、今の心境な訳でして・・・・。 石でできた流しで、ゴシゴシとこすりながらの洗濯。 小さい時を思い出す。 ベランダから下を覗くと、何やら人が集まっている。 ちょうど宿の斜め前の道路脇に、一本の水道がコン柱に取り付けられていて、最初は単なる足洗い場だ!・・・・などと思っていたら大間違いだった。 五、六人の汚い格好をした地元の人たちがやって来て、身体を洗い出すわ・・・はたまた、食器を洗ったり・・・という有り様。 洗う作業であれば、何でもOK!と言わんばかりに皆、何事にも気にしないで、とにかく何でも洗ってしまう。 まあ!こんなところで住んでいれば、汚い!と言う感覚など、遠いところへ追いやられてしまうのは仕方が無いことかも知れない。 * 午後五時。 散歩を兼ねて外へ出る。 商店街を通って行くと、買い物客で細い路地はごった返している。 一人で歩くと、ちょっと薄気味悪いところである。 俺「そんなに、ジロジロ見るなって!!」 コンノー・プレス内にある、小さな食堂へ入ると現地の人で満席だった。 大衆食堂らしい。 あるものは、何種類ものカレー! 仕方なく、そのうちの一品を注文。 これが・・・・なんとも酷い。 カレーとは言え、日本で言うカレー汁・・・・・その下に、申し訳なさそうに添えられている、パサパサの細長い米。 口に運んでみて、脳みそやら、内臓のあっちこっちが、爆発したような辛さに参ってしまったではないか。 インドのカレーは辛いって聞いていたけど、辛党の俺でもぶっ飛んでしまうほどの辛さなんだから、まいってしまう。 これで捨ててしまうのも勿体無い。 鼻をつまんで口の中に放り込み、すぐに水をガブガブ流しこんで、涙を流しながら全てを胃の中に流し込んだ。 カレー代、1.25Ru(42円)と安いのだが、二度と口にしたくない辛さだ。 食堂を後にする頃には、もう外は暗くなっていた。 帰りに口直しにと、リンゴ(2.0Ru≒68円)を買って部屋に戻る。 歩き回ったせいか、足がだるくサロンパスを貼る。 ベッドに横になり、やっと落ち着きを取り戻したようだ。 暗くなると、下の通りも人通りが少なくなってきた。 この宿、大きな道路と接している割には、静かなのだ。 部屋の外を見ると、外灯に小さな虫が群がっているのが見える。 そして、部屋の壁には、イモリ?ヤモリ?・・・に似た虫が、ピタリと張り付いている。 虫達はジッと獲物を見据えて、瞬間的に長い舌を伸ばし、小さな虫達をゲットしていく様を、息を潜めて見居ている自分に気がつく。 テレビのドキュメント映画でも観ているようで、時の経つのを忘れて観ていた。 今、午後十一時半。 とうとう、ここまでやって来た。 日本からの二通の便りを、何度も何度も繰り返して読みふける。 友達からの便りではあるが、遠い異国を旅していると、睡眠の次に安らぎを覚える嬉しいものでした。 初めての便りに感動した一日でした。 ジャンル別一覧
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